テーマ「ひも」
タイトル「魅惑なる美人局 (tsu-tsu-motase)」

人  物
月島 智(10)(18)無職
友井 鯛子(24)(32)智史の保護者
立野 冬子(25)(33)智史の保護者
千田 千紗(27)鯛子のかつて部下
佃 時彦(25)カジノのオーナー

○料亭”月夜”全景 (夜)
白壁に覆われ、パッと見には料亭と判
らない家屋に、小さな提灯に”月夜”
と書かれている。料亭前の狭い一本通
行の道路に、車が数台止まり、中から
スーツ姿の男二人と、友井鯛子(24)と立
野冬子(25)が降りてくる。

○同・廊下 (夜)
獅子脅し鳴る小さな庭の見える、廊下
を無粋な歩き方で男二人と鯛子、冬子
が歩いている。

○同・松の間・前 (夜)
松の間と小さな看板が出ていて、障子
を隔てて、中が明るいのは感じられる。

○同・松の間・中 (夜)
障子が大きく開く。中には手塚多紀(45)
が手首を切って死んでいる。鯛子と冬
子は呆然と立ちつくす。男1が、白い
手袋をしたまま多紀の脈拍を確認し、
首を振る。男2が白の手袋をしたまま、
白い封筒を手に取る。男1が頷くのを
確認し、中から手紙を取り出し読む。
男2「申し訳有りませんでした。月島先生の
名を使い、麻薬密輸をしたのは、私です。
月島先生には御迷惑をお掛けしました…」
鯛子「月島にやらされたに決まってるじゃな
い!遺書に”麻薬”なんて説明まで入れて」
冬子「鯛子…」
男1「この可能性を考えられなかった俺達の
ミスだ。月島代議士が、麻薬密輸には関わ
っているのは事実なのに…」
廊下から走ってくる音がした。間もな
く、月島智(10)が手紙を握り締め、入っ
てくる。多紀の姿を見て、飛びつく。
月島「母さん!」
冬子は、月島に近づく。
冬子「君が…、智君?月島の息子…」
月島が持っている手紙に鯛子は気づく。
鯛子「ちょっと、見せて…」
戸惑いながら多紀に縋っている月島か
ら、鯛子は手紙を奪う。
鯛子「これは…」

○新宿・歌舞伎町 (夜)
軒並みスナック、Barの看板があり、
頭上に歌舞伎町と書かれた街灯がある。

○Barトワイライト・入り口前 (夜)
無数の店名の書かれた看板が輝いてい
る、雑居ビルの一階に”Barトライ
ライト”と看板が出ている。

○同・ボックス席 (夜)
ローパーテーションに、ポトスの鉢植え
が幾つか置かれている先に、月島智(18)
に、あゆ風な女1がじゃれついている。

○歌舞伎町一番街 (夜)
貴金属を付けた派手な男達が、何人か
立っている前を、艶やかなサンローラ
ンのスリップドレスに、シャネルやブ
ルガリのアクセサリーをつけた、千田
鯛子(32)が、勢いよく歩いている。その
上に”歌舞伎町一番街”と看板がある。

○Bar”トワイライト”カウンター(夜)
バーテン姿の立野冬子(33)とカウンター
を挟み、千田千紗(27)がボックス席を
気にしながらウィスキーを飲んでいる。

○同・ボックス席 (夜)
ウィスキーを片手の月島に、女1囁く。
女1「智〜、おばさん達、睨んでるよ」
月島「ほっといて大丈夫さ。それより、俺は、
君ともっと楽しみたいな…」
くすくす笑い月島の首に、女1は腕を
回し、何度も啄むような口付けをする。

○同・入り口 (夜)
カウベルが鳴り、ドアが開く。

○同・カウンター前(夜)
冬子「いらっしゃ…、ちょと…」
冬子は、眉間にしわを寄せる。

○同・ボックス席 (夜)
月島と女1が躯を密接しながら、話す。
月島「で、約束のもの…、持ってきた?」
女1は、月島の唇に自分の唇を寄せ、
鞄から、厚めの封筒を取り出す。
女1「ちょっとしかないけど、おばさん達か
ら離れて、生活、出来ると思うわ…」
女1はに縋り付き、月島も応えるよう
に口を開き、舌が見えるキスをする。
女1がキスにうっとりする。目を開け、
月島は手にあった封筒を取り、枚数を
数え始めると、鯛子に取られる。
鯛子「何?これは?」
月島「あ…」
月島は離れ不機嫌な顔で、鯛子を見る。
鯛子は眉間に皺を寄せ、仁王立ちする。
鯛子「話しがあるの、顔、かしなさい、智!」
月島「おい!何だよ!」
鯛子「その女、悪いけど、帰ってくれる?」
鯛子は女1を見下ろす。女1脅え月島
に縋り付く。月島、溜息を付く。
月島「関係ねーだろ?放っといてくれよ!」
鯛子「んな訳いかないでしょ!あんた誰の金
で仕事もせず、生活してると思ってるのよ」
月島「自分だけが金、出してると思うなよ。
なぁ」
月島は、同意を求め、女1頷く。
鯛子「冗談じゃない、受かった大学も行かず」
月島「うるせーな、ババァ!行こうぜ!」
月島立ち上がり、女1の腕を掴み歩き
出す。鯛子に腕を掴まれるが、月島は
はそれを振り払い歩き出す。

○同・カウンター前(夜)
月島と女1が通りかかる。千紗が物云
いたげに見つめる。月島は冬子が咎め
るように無言で見つめる。ドアが開閉
しカウベルが鳴る。冬子、溜息を付く。
鯛子「ちょっと甘やし過ぎじゃない?あれ、
下手したら、犯罪になるわよ!」
鯛子は、千紗の隣に座り、冬子は表情
を変えない。
冬子「誰かに吹き込まれたみたいだから…。
私達が趣味で、智を飼ってるとかって…」
千紗「そんな!先輩は智君の為に仕事まで!」
鯛子「千紗!」
冬子「しょうがないわよ。人から見たら、飲
み屋やってる女と、何の仕事してるか判ら
ない女で、智を飼ってるって思われても…」
千紗「先輩…」
鯛子「でも、これじゃしょうがないでしょ?
智があんな状態じゃ。月島から、部署を追
い出されてまで、引き取った意味無いでわ」
冬子は、応えずただクスリと笑う。
冬子「それより、随分気張った格好ね」
鯛子「ちょっとお仕事…、あんたも来る?月
島代議士がらみって、たれ込みよ」
冬子「!!」
冬子は表情を硬くする。

○歌舞伎町一番街 (夜)
”歌舞伎町一番街”のアーチがある下
でサラリーマン、OLが群れている。

○カジノバー”スノーホワイト”入口(夜)
黒の扉に、小さく金文字で”Snow
White”とある。横に黒服が立っ
てい、鯛子は紹介カードを見せる。黒
服はドアを開け、鯛子と後ろにスーツ
姿の冬子が入っていく。

○同・フロア (夜)
インカムを付けた黒服が、鯛子と冬子
に目元を隠す仮面を渡し、歩き出す。
カジノでは、年齢層幅広くサラリーマ
ン、OLが楽しんでいる。冬子の目線
が止まる。女2から金を貰い、ブラッ
クジャックをする月島がいる。鯛子も
その方向を見、眉間に皺を寄せる。
鯛子と冬子の動きが止まり、黒服が不
審な視線で二人を見る。鯛子は、舌打
ちして、黒服に微笑む。

○同・別室のカジノ・ドア前 (夜)
黒服が立ち止まり、鯛子と冬子は仮面
を付ける。黒服はドアを開け、鯛子と
冬子は中に入る。

○同・別室のカジノ中 (夜)
仮面を被って正装に近い服装の何人も
の男女が、カジノを楽しんでいる。
部屋は、センターフロアの他に個室が
ある。鯛子は上品なスーツの佃時彦(25)
を見付け、踵を返す。
鯛子「帰るわよ…」
冬子は眉間を寄せ、鯛子、佃を指す。
鯛子「あいつ。あいつの息がかかる店は、詰
めないと、騒ぎを起こせないの…。でも収
穫はあったは…」
冬子「あなたの情報もいい加減ね…。でも、
佃…、時彦が関わってるんじゃむりか…」
不敵な笑みを冬子に浮かべられ、鯛子
は悔しそうな顔をしながら、ドアを開
ける。離れた所で、佃は鯛子と冬子を
見つめながら、シガレットを吸う。

○同・フロア (夜)
月島の前には何段もコインが並んでい
る。月島の腕を鯛子は掴み、周りが止
めるのも聞かず、外に引っぱり出す。
冬子は呆れながら、唖然としている周
りに愛想笑いと会釈をし、外に向かう。

○同・入り口・外 (夜)
鯛子に腕を掴まれて、月島は外に出、
その後を追うように冬子が出てくる。

○路地 (夜)
月島を壁に鯛子は突き飛ばす。
鯛子「あんた、こんな所で何してんのよ」
月島「別に良いだろう!折角ついていたのに
よ!じゃますんなよ!」
鯛子「あんたが誰に何を聞いたか知らないけ
ど、何が不満なの!」
月島「俺の母親は売人だったんだろ麻薬の!
で、逮捕しに来た”麻取”のあんた達が、
責任感じて、俺を囲ってるんだろう?」
冬子は、月島の顔を叩く。
冬子「智、あなたが何を聞いたか知らないけ
ど、あなたはそれでいいの?」
月島「何を…」
冬子「あなたは見てもいないものを信じて、
惑わされてそれでいいの?そう感じるな
ら、自分の目で、真実を確かめなさい!」
鯛子「冬子…」
泣きそうな月島の頭を冬子は抱く。
冬子「さ、帰るわよ。鯛子はどうするの?」
鯛子「あたしは一旦戻るわ。事務所に…」
鯛子、歩き出し振り向く。
鯛子「朝には戻るわ。帰ったら三人で話し合
いましょう」
冬子微笑み、月島ばつが悪そうにそっ
ぽを向く。

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