テーマ「悲しみ」
タイトル「悲しいねチャチャチャ…。」

人  物
村上 美波(17)女子高生
真野 睦彦(29)美波の叔父
元原 芽里(17)美波の親友
村上 基子(35)美波の母
村上 充(37)美波の父

○横浜駅西口全景
   ビルの中央には”横浜駅”と書かれて
   いる。大勢の様々な人が行き交う。

○ショッピングモール
流行のデザインを大量生産した服や、
アクセサリー、鞄が並んでいる店舗。
制服をおしゃれに着崩した学生達や、
今流行の格好をした、若いお嬢さん達
が、闊歩している。

○アクセサリー売場
髪留めやピアスが美味しそうに、並ん
でいる棚を、村上美波(17)が真剣に見つ
めている。必死な美波の姿を、横で元
原芽里(17)が嫌そうな表情をしている。
美波「悲すぅ〜いぃ!」
芽里「どうしたの…」
青い髪留めを美波は取り芽里に見せる。
美波「これの赤欲しかったのに…、悲しすぎ」
芽里「青じゃダメなの?」
髪留めを棚に美波は戻す。
美波「もういい!”茶いこ!”」
踵を返すと美波は、芽里の手を引き、
歩き出す。

○”Blue Sky Blue”・前
ガラス張りにドーナツが作られてい
る風景が見え、入り口には薄青に群
青色で”Blue Sky Blu
e”と書かれている。

○同・カウンター
青を基調としたカントリー風の店舗と
は、裏腹に近代ポップが流れている。
美波と芽里の他に、制服が異なった女
学生やOLが群れている。
目の前の一個しかない、”フレンチク
ルーラー”み美波は目線をやる。
女学生A「フレンチクルーラーとアイスティ」
美波眉間に皺を寄せる。

○同・窓側のカウンター席
窓には空に雲が浮かぶ柄の、ブライン
ドがかけられてえいる。店内は様々な
制服の女学生やOLで空席が見当たら
ない。カウンター席で、アイスティの
氷を小突いている美波を芽里は見る。
美波「悲すぅ〜いぃ!今日の血液型占いでは、
ラッキーディって云ってたのに、最低!」
芽里「まあ、そう云う日もあるよ」
美波「あぁ、このまま悲しみに打ちひしがれ
て、私は悲劇のヒロインの如く、死んで行
くんだわ」
芽里「大げさ、ドーナツ無かっただけじゃん」
美波「違うは、髪留めも!」
大げさに泣いた真似を美波がし、呆れ
て溜息を芽里は付く。
芽里「三度目の正直ってあるんじゃん?」
美波「二度あることは、三度ある〜、だった
らどうしよう…」
芽里が笑い、それをみた美波が拗ねな
がら、アイスティに八つ当たりする。

○村上邸・全景
区画整理された街並みに、建てられた
比較的古めの、二階建ての家。塀には
”村上”と表札が出ている。

○同・ダイニング
エプロンをして、料理をしている、村
上基子(35)と、ダイニングにつきお茶を
飲んでいる真野睦彦(29)がいる。
真野「だから、姉さん。そんな感じで、予定
空けといてくれよ」
基子「わかったわ」

○同・玄関
美波が帰って来る。三和土には男性物
の靴がきちんと揃えられている。
美波「ただいま」
靴を気にしながら家へ上がり、スリッ
パ立てから、苺柄のピンクのスリッパ
を取り、履く。

○同・ダイニングのドア・前
基子と真野の話し声が微かに聞こえ、
勢いよく美波はドアを開ける。

○同・ダイニングの中
美波「むっちゃん!!」
ドアの先に立つ美波から、ダイニング
に座りお茶を飲みながら振り向く真野
と、その傍らで、不機嫌な表情をして
いる基子が立っている。
真野「やあ、美波ちゃん」
笑顔を向ける真野に美波は擦り寄る。
美波「今日は会社どうしたの?」
真野「え?あぁ〜、いや、今日はちょっと用
があって近くまで来たから…」
基子「美波、帰って来ていきなり、何ですか」
体裁を繕うように、美波は舌をぺろっ
と出すのを見て基子は溜息を付く。美
波と基子のやり取りを見て、真野はク
スリと笑う。笑われた美波は、拗ねる。
美波「ひどーい、お母さんの所為で笑われた」
基子「何云ってるの。あんたが落ち着きが無
いから、帰って来たと思ったら…」
真野「まあ、まあ、姉さん。それより、美波
ちゃん、今晩暇かい?」
睨んでいる基子を横目でちらっと見て
から、美波は微笑み頷く。
美波「え、いいよ。別に」
基子「美波!睦彦も!」
真野「まあ、まあ、姉さん。実はさ、今晩の
コンサートのチケット余らしてさ。勿体な
いし、一人で行くのも寂しいだろう?」
美波「え!!むっちゃんと一緒!」
美波が上げる歓喜の声に、微笑みなが
ら真野はチケットを懐から二枚取り出
す。チケットには、九月十日、開場18
時、開演19時”ヴァイオリンの夕べ”
と書かれてある。
基子「これクラシックじゃない!あんたクラ
シックなんて判るの?」
美波「え?あ…、好きだよ!これ貰って良い
の?むっちゃんも行くんだよね?」
真野「ああ」
基子「クラシック聴いたって、どうせ寝ちゃ
うんでしょ?」
美波「違うもん!」
真野「まあ、まあ…。じゃ美波ちゃん、俺、
一旦会社に戻るから、現地集合でいいかな。
姉さんもいいだろ?」
基子「しょうがないわね」
目の前に、真野が両手を出しているの
に気付き、基子溜息を付き、エプロン
のポケットから一万円取り出す。真野
は、満面の笑みで受け取り立ち上がる。
真野「どうも!俺、会社戻るから。姉さん、
日曜日、宜しく。じゃ美波ちゃん後でね」
真野は退出し、美波、笑顔で手を振る。

○道 (夜)
碁盤の上に、区画された住宅街の道。
各家からは、灯りが漏れ、等間隔に街
灯がたっているが、薄暗い。真野と美
波だけで、他の人通りはない。
真野は、腕時計を見、針は11時半近く
を指している。
真野「こんなに遅くまで、ごめんな」
微笑みながら、美波は首を横に振る。
美波「楽しかった。音楽もよかったし、あん
な上品なレストランも初めてだったし、何
か、むっちゃんとデートしてるみたいで…」
真野「デートか…」
真野は笑う。横で歩いている真野を、
美波は盗み見ると、立ち止まる。美波
に真野も足を止める。真野の方を躯ご
と向け、美波は芽を閉じる。
真野「美波ちゃん?」
美波「むっちゃん…、キスして…」
真野は苦笑し、目を開け美波は笑う。
美波「あ、えーと、ちょっとそんな気分…、
味わってみたいなって…。ほら、折角いい
ムードだし…。ダメ?」
上目遣いに美波に、首を傾げられ、真
野は一回微笑む。ゆっくり、美波の肩
に手を置き、かすめるように唇を奪う。
美波、顔を赤くしながら、微笑む。
真野「さ、帰ろう。姉さんが待ってる」
美波は頷き、真野の手を取り歩き出す。
薄暗い道に、美波と真野は手を繋ぎ、
遠ざかっていく。街灯だけが道を微か
に照らしている。

○村上邸・全景
T−日曜日
村上邸の屋根に、柔らかい日が庭にあ
る、緑の木々に差し込んでいる。真野
と水城美樹(27)が、門に近づき、チャイ
ムを押す。ドアが開き、中から基子が
真野と美樹を家へ導く。

○同・美波の部屋
パンダのぬいぐるみが飾られている部
屋。美波は、カントリー風のベッドカ
バーの上に寝そべり、電話の子機を耳
に当てている。
美波「今日、むっちゃん来るんだって。どー
しよー。プロポーズなんてさ、されちゃっ
たら……、えー、ひどーい、芽里!ちょっ
と人の話、聞いてる?物心ついてから、ず
っとむっちゃんが、好きだったんだよ!私
……。えー、みみたこ?でもー…」
基子の声「美波〜!ちょっと降りて来なさい」
美波、受話器を外し、ドアに叫ぶ。
美波「はーい!」
受話器を耳に美波はあてる。
美波「あ、むっちゃん来たみたい!え、ちゃ
んと報告するよ!判った、判った」
電話を切り、受話器をベッドに放り、
美波は姿見で髪型と服をチェックし、
にっこりと微笑んでから、頷く。
美波「うん、完璧!」
美波部屋を後にする。

○同・リビング
リビングチェアーの三人座りには、真
野、美樹がい、その正面に村上充(37)と
基子が座って閑談している。リビング
のドアが開き、美波が顔を出し、基子
がそれに気付く。
基子「そんな所に立ってないでこっちいらっ
しゃい。睦彦が婚約者連れて来たのよ」
驚きに動けないでいる美波に、微笑み
真野は隣の美樹を見る。
真野「美波ちゃん、水城美樹さん」
美樹「宜しくね、美波ちゃん」
美波は唇を噛みしめ、手は拳を握ると、
ゆっくりと瞳を閉じ、溜息を付く。
基子「全く、幸せそうな顔してるんだから」
真野「そんな、なぁ」
美樹は幸せそうに笑っている。美波、
深呼吸し目を開け、微笑む。
美波「むっちゃん、おめでとう!目尻が下が
ってる!よかったね」
真野「有り難う」
後ずさりを美波はする。
美波「あ、あたし、芽里と約束あんだ。じゃ、
ごゆっくり」
ドアが閉まる。

○同・階段
美波、駆け上がる。

○同・美波の部屋
美波、ベッドに倒れるように寝ころぶ。
美波「よかった、よかった…」
美波の瞳からは涙が止めどなく流れる。

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