テーマ「お節介」
タイトル「通過点」

人  物
矢野芳樹(16)(19)大学生
飯田由里(みかん)(16)(19)矢野の幼なじみ
吉田悦士(21)矢野の同級生
先輩A、B、C
ソープの店長
同僚

○田舎道
   刈り取られた一面の田んぼ。その先に
   頂を白くした山渓が広がっている。
   自転車に乗らずに引きながら、コート
   の襟を引き締めて、矢野芳樹(16)と飯田
   由里(16)が歩いてくる。
矢野「そうか、東京に行っちゃうのか…」
由里「うん…、母が来いって」
矢野「よかったじゃんか、やっぱ自分の両親
 の方が良いよ。やっぱり」
由里「うん、そうだね…」
矢野「お袋さん所行くのやなのか?」
由里「え、まあね。だって、離婚して、私を
 父に押しつけたのよ?で、父が亡くなって
 も一年も放って置いて」
矢野「でも、迎えに来てくれたんだから…」
由里「全部、建前なのよ、母の…」
矢野「そんなこと…」
由里「祖父の命令で結婚して、父が派閥争い
 で負ければ、はい、さようならって離婚、
 クレームが来たから、私を引き取るのよ」
矢野「そんなに嫌なら、ここにいるって出来
 ないの?」
   首を振る由里を横目で矢野は見つめる。
矢野「駆け落ち…」
由里「?」
矢野「駆け下りしようか…」
   由里は驚きに目を見開く。
矢野「今晩、八時半に、駅で待ってる」
   唾を由里は飲み込み、自分の自転車を
   ぶつけないように矢野にそりそう。

○JR「柘植駅」全景 (夜)
木製の駅には、「柘植駅」と看板が出
ている。人通りはまったくなく、矢野
がボストンバック一つ持って、立って
いる。矢野は溜息を付き、腕時計を見
ると、時刻は22時57分を告げている。
汽笛が鳴る。

○同・構内 (夜)
駅から夜行の草加線が発車する。

○走る列車 (朝)
日差しを浴び、山手線が走っている。

○高田の馬場駅・構内 (朝)
山手線が止まり、サラリーマン、OL
学生が乗降する。

○戸山公園測道
深緑が眩しい公園脇の道を様々な格好
をした大学生の中で、矢野芳樹(19)が歩
いている。矢野の肩を吉田悦士(21)が叩
く。矢野はあくびをしながら振り向く。
矢野「おはよう…」
吉田「しけたつらしてるなぁ〜」
矢野「月曜日、それも一限からの授業だぜ…。
何で元気なんだよ」
吉田「そ、いや、今晩おひま?」
矢野「はぁ?何で?」
にやりと笑って吉田は、矢野に耳打ち
する。矢野逆毛を立てるように真っ赤
になって叫ぶ。
矢野「ソープっ!!」
矢野と吉田の周りの学生が、一斉に二
人を不審そうに見つめる。吉田は愛想
笑いを周りに向けながら、はしによる。
吉田「でかい声出すなよ。じゃ、今日六時半
五反田駅改札ね」
矢野「誰が行くって云ったんだ!」
吉田は愛想を振りまきながら、矢野の
横からそそくさといなくなる。
矢野「ソープね…」
矢野大きく溜息を付く。

○早稲田大学・全景
小さめな校舎が建っていて、それを囲
む塀に看板があり”早稲田大学”と書
かれている。
○同・キャンパス内
重厚な木造の階段状に置かれた机には、
まばらに空席はある。若い男の教授が
黒板に記号学者の”バシュール”の説
明をしている。矢野は中央の席でノー
トを必死にとっている。

○同・玄関中 (夕)
様々学生がいる。本を読んでいるもの、
駄弁っているもの。矢野はそんな様子
に感心無く、歩くいている。背後から
吉田が抱きつく。
吉田「やーのくん、さ、行こうぜ」
嫌な顔をし矢野は、吉田を見つめる。

○歓楽街
華やかな風俗店が軒を並べている。

○ソープランド「うっふん倶楽部」前
コンクリートむき出しの壁の上にソー
プランド「うっふん倶楽部」と書かれ
ている。先輩A、B、Cが待っている。
吉田に引っ張られるように、矢野が渋
々付いてくる。
矢野「やっぱ、俺、帰るわ」
先輩A、B、Cは怪訝な表情をし、
慌てて吉田が矢野に耳打ちする。
吉田「(耳打ちするように)素直になれよ、
お前だって可愛い女の子にぬいて貰いたい、
って、心の中では思ってるだろう?」
吉田はにやにや下世話に笑いながら、
矢野の股間を掴む。
矢野「よけーなお世話だよ…」
呟きながら、溜息を付く矢野を、吉田
は肩を掴まむ。店の中へ連行する。

○同・店内・カウンター
待合室には店員以外はいない。
壁には、女性の写真が貼られている。
先輩、吉田はにやにや笑いながら女性
を選び、八千円を店員に渡す。矢野は、
圧倒され、きょろきょろしている。
吉田「早く選べよ…」
矢野、慌てて写真を見ると、由里にそ
っくりな人物を見付ける。

○フラッシュ 田舎道
由里(16)と矢野(16)が帰宅している風景

○ソープランド「うっふん倶楽部」前
息をのみ、矢野は狼狽えていると、吉
田が由里にそっくりの写真を見る。
吉田「あ、この娘ね。早く金払えよ」
戸惑いながら矢野は、お金を払う。

○同・室内
飾り気のない寝台と仕切りはなく浴場
がある。矢野は居心地悪そうに、俯き
ながら寝台に座る。間もなくドアが開
き、”みかん”と名札を付け、下着の
ような服装の飯田由里(19)が現れる。
由里「いらっしゃい…」
由里の声に驚き、矢野は顔を上げたま
ま、身動きが出来ない。由里は驚きな
がら、笑う。
由里「あ、矢野君?もしかして、矢野君じゃ
ない?」
矢野「飯田さん?だよね…」
由里「やー、懐かしいね。何か中学生に戻っ
たみたい!学生時代真面目だった矢野君も、
こういうとこくるんだ〜」
矢野「飯田さんは…、その…、何で、こんな」
豪快に笑い由里は、矢野の肩を叩く。
由里「だって手っ取り早くお金になるじゃん」
矢野「でも…。もしかして…、あのあと…」
由里「あ、もしかして、転校した後、母親に
売り飛ばされた、とか考えてる?」
矢野「そ、そこまでは…、でも…、借金か、
何かあるの?」
由里「相変わらず真面目ね、矢野君は」
溜息を付く由里を、矢野は心配そうに
見つめる。
由里「そんな話は、三流のテレビドラマか、
三文小説の中の話よ」
矢野「飯田さん?」
由里「矢野君ってロマンチックだよね。引っ
越す時も、駆け落ちしようって云ってくれ
たし」
矢野「それは、飯田がもし…」
由里「私の為って考えてくれるんだよね?矢
野君は、優しいから…」
矢野「そんなこと…」
由里「じゃさ、矢野君、私の為にこの店通っ
て?私を指名して?」
矢野「え!!出来ないよ、そんな、それより、
店、辞めるお金の少しぐらい…」
由里は、くすくす笑う。
由里「辞めるって…、私、好きで働いている
んですけど…。ここバイト料良いし…」
矢野「飯田?」
由里「矢野君、勘違いしてるよ…。私の事」
矢野「?」
由里部屋の時計を見る。
由里「ま、いっか。それより、そろそろ時間
なんだけど、延長して、Hなことする?矢
野君なら、口だけじゃなくて、挿れてもい
いよ?特別」
矢野「え!?いいよ。今日は帰る…」
由里、ベッド近くのサブデスクの引出
から、割引券を数枚取り出し、それを
矢野に渡す。
由里「また来てね。昔の友達のよしみで…」
由里は笑顔で手を振り、矢野を送り出
す。

○同・廊下 (夜)
ドア越しに笑顔で見送る由里を気にし
ながら、何度も振り向き、矢野歩く。
矢野が見えなくなり溜息を付く。背後
には、同僚がしごけない格好で立った
いる。
由里「中学時代の友達…。たく、何にも私の
こと判ってないのにさ、駆け落ちしようと
か、今度はこんな店やめろとか…」
同僚「いるのよ、夢勝手に描いて、ヒーロー
になったつもりの男の子…」
由里「ヒーローか…、まあいいや。どうせ今
日でこの店辞めるんだもん。大学の勉強忙
しくなったし、留学の資金稼ぎも出来たし」
同僚「云ってやったの?それ…」
由里「云うわけ無いジャン。だって、お姫様
は、いつも秘めたるものだから美しいんで
しょ?」
同僚と由里は、笑う。

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