2006/06/28
METABOな夜 |
巷で流れているCMがある。
コンセプトは、清涼で爽快さが感じられる風景。 あくまでもアブらっぽさを感じさせずに、なお背徳感を与えず誰でも手に取りたくなるそんな雰囲気。 ターゲットは、三十代から四十代のサラリーマンを中心した前後十歳程度に向けて。 いくつもの会議を重ねて出来上がった映像はこうだ。 スーツのジャケットを脱いで、シャツを腕まくりしている若干豊満に見える三十代後半のサラリーマン。 サラリーマンは、汗をかきながらも、自分の顔くらいに大きいバーガーを美味しそうに食べている。 横には通常よりも大きめなカップに入ったシェーク。 食べているバーガーがアップになるとはっきりとパン、レタスが間に挟まってパテと呼ばれる薄いハンバーグ、チーズ、パテ、パン、レタスとトマトとオニオンスライス、パン、パテ、チーズ、パテ、レタス、パン。 誰がそのバーガーを見ても、ギガカロリー、テラカロリーと頭の中で予想できないほどの大きさを考えたくなる。そんなかなりのパワーミール。 汗をかいても迫力あるカップに入っているシェークの味は、モストプレーンなバニラ。 撮影は、日比谷公園の噴水があるベンチ。 噴水から飛び出す水の清涼感と緑の爽やかさにマッチした映像。 音楽は夏や海などのテーマの曲を作ることで有名になった作曲家の曲に乗せて。 商品名はその名は、その名もズバリ、メタボバーガー。 最後に、キャッチはこうだ。 『あなたのメタボを応援します ゴールデンバーガー』 このCMが話題の引き金になったのかは判らない。 CMが流れた当初、巫山戯すぎているなどの批判も多かった。しかしこのいつしか批判は好転し、話題は話題を呼んでいく。 経済を扱う新聞が提供になっているニュースでは、ストレス解消などの好意的な解釈をしてくれ、商品は話題を呼び、売り切れになるまでのヒット商品になった。 * * * 「もう、いい加減にしろよ…」 呆れるように溜息を付いた後、戸波渉はベッドサイドのテーブルに置いてあった、テレビのリモコンを取ると電源を切った。 「いいじゃないかぁ、このCM、本当にいいCMだよね?」 純粋に納得している風な男の姿に、渉はもう一度小さく溜息を付いた。 「CM? メタボバーガーとメタボシェークじゃなくて?」 「意地悪言うなよ、もちろん一番は渉君と渉君が作ったこのCMに決まっているじゃないか?」 「本当?」 こぼれ落ちそうな大きな瞳を見開いて、渉は男の顔を覗き見た。男は少し赤くなりながら覗き込む顎に手を添えると、舌をキスをする。 元々ベッドの上、二人とも何も身に纏っていない。 キスが次のステップに移行するのに時差なの、必要ない。 口蓋を舐り、お互いの躯の距離が益々縮まっていく。 その瞬間、男の動きがピタッと止まり、熱がすーっと冷めるように男が離れる。 「…っていいながら、僕のお腹をぷにぷに掴まないでよ」 「気持ちいい…、これだけでイっちゃいそう…」 唇が離れたのをいいことに、渉は男の二段、三段など可愛いもの、いくつにも別れる余裕が無いほど実の詰まった腹に、うっとりとしながら頬ずりをする。 「いや…、渉君…、いや…」 男は身悶えるながら、渉から離れようとする。 しかし渉の方は、腹だけではなくでっぷりとした股にキスをし、肉の奥の奥の探さなければ見つけられないほどの所に秘められた部分に指で撫でる。 太い股とお腹に自分の股を挟まれながら、挿入するのは好き。 けれど今は男の油が乗ったお肉を堪能したい。 渉は思い切り悦に浸りながら、男の躯を愛撫していく。 次の瞬間、男が巨体を捩る。 そして渉から離れると、切なそうな子犬の様な瞳を渉に向けた。 「あ、あゆ、渉君…。君は目がぱっちりしていて、とっても可愛いし、あっちも強くて僕を何度でも達かせてくれる最高な相手だと思うけど…」 「けど?」 「でも、君が恋しているのは僕じゃない…」 「…」 「君が恋しているのは、僕のでっぷりと出たお腹やぽよぽよな二の腕、それにぼよんとたるんだ股だ…」 「でも…」 「渉君が僕の中に挿入したときうわごとの様になんて言うかしってる?」 「なんて言ってるの?」 「『最高の脂肪だ!』って叫ぶんだよ!!」 四十を越えた男は、極まる感情を抑えきれずに涙を流し始めていた。 「もう耐えられないよ!!」 男はそう叫ぶと、ベッドからどすこいと地面を揺らすように飛び降りると、自分が脱いだ4Lの服を着込んでいく。 雪の積もった坂を雪だるまが転がり、どんどん大きくなっていく様な、そんな迫力を伴って部屋を出ていく男。 ドアが閉まる音が聞こえ、沈黙はこの終わりを渉に自覚させる。 追いかけて謝れば、きっと何回かは許してくれるだろう。しかしきっとまた同じ事を繰り返してしまう。 本当に、いつもの事だ。 恋をするのは、男の躯で、いつも躯目当てだったのかと振られる。 心が相手に惹かれていないわけではない 子供の頃、とある童話の登場人物に恋をした。 その時は今の性癖に気付くよしもなかった。 しかし今考えると、あれがきっかけなのだと自覚できる。 作品の名前は「鏡の国のアリス」 恋をしたキャラクターは、「ハンプティダンプティ」。 あの時から、大きなお腹をもった卵形の生き物に恋し、いつしかその思いは自分の下で組み敷き、興奮を共にしながら、その生き物の中で吐精したいと思いようになった。 * * * 「〜O.K. お疲れ様でした」 モニターで、最終の映像を確認し終えると、戸波渉はバサバサ音のしそうな長いまつげに包まれた大きな瞳で、何度か瞬きをしにっこりと擬音が聞こえてきそうなかわいらしい笑顔を向けた。 渉の声を受けて、今まで張り詰めていた空気が和らいでいき、スタッフは順番に手慣れたように、スタジオの片づけを始めていく。 「お疲れ〜」 自分の荷物を持ってスタジオを出ようとする渉に、スタッフが口々に挨拶をしてくる。 「お疲れ様でした」 声をかける、かけないを区別しないで、にっこりとまるで少女漫画のヒロインのような笑顔のまま、渉も声をかけていく。 CMディレクターなどという偉い役職を、渉は持っていても腰の低くスタッフ受けもいい。けれどもそれ以上に、地の果てまで行ってもいいほどどこまでもかわ いらしい渉が関わる仕事場は、仕事中は真剣勝負だけれども、終われば皆幸せそうな笑顔が絶える事がない。どんな辛い仕事でも、終わった後の渉の笑顔で皆癒 される。 下手をしたらスタッフの中に、渉フリークや隠れ親衛隊がいるとまで言われるほどだった。 「あ、太田さん、お疲れ様でした」 今回のCMでプロディーサーをしてくれた広告会社担当である太田を見つけ、渉は声をかけた。 渉も以前太田が勤めている広告会社に勤めていた後輩だった。その頃から組んで仕事をすることが多かった。その所為もあってか、現在フリーになった渉に、仕事を持ち込んでくれたりするのも太田だった。 「お、お疲れ様でした〜。わ、渉さん、終わったら打ち上げもかねて飲みに行かないかって、話出ているんだけど、行きますか?」 真っ赤になりながら、太田は一気に渉に告げた。 太田は赤面症や上がり症などではないと思う。しかし渉と話をするときは、いつも真っ赤な顔になって話をする。 かわいいとは思うんだけど、やっぱり後輩どまりだよな…。 それ以前に、身長があってスポーツマンタイプの太田はやはり圏外だ。 つい相手を捜す方に考えている自分。情けない自分に苦笑しながら、失恋したこと引きずっているのだということを思い知らされる。 自分の心の中で反省しながら、渉は笑顔を作る。 「ごめん、これから一件取材が入っているんだ。それに、その後、その…、デ、デートなんだ…」 元々デートの予定が入っていたのは事実だ。 しかし、昨日振られた。 そうなれば、そうなるで人の肌が恋しくなる。 思わず付いた嘘だけど、どこかの店でもいってナンパしてでも、今日は思いっきり誰かを抱きたい気分だった。 もっとも渉の容姿からいって、自分を抱きたいという男はごまんと現れる。しかし自分に抱かれたい。ましてハンプティダンプティを探すとなると、見つからないことも多かった。 どっかにカモがネギしょってないかな…。 渉が今頭の中で何を考えているか、もちろん性癖も含めて知らない太田は、単純に言葉に驚いた。 「で、で、でーとっすか? マジで?」 真剣な太田の追求する態度に、渉は頬を赤らめるだけで返事をしなかった。 その変わりこれ以上応えられないと示すように、手をぱたぱたと左右に振った。 「かぁわっいー、渉さん。でも渉さんにも恋人がいるんだ〜。渉さん可愛いから持てそうだしね、もしかして年上のお姉さんじゃないんすか?」 「何で?」 太田は渉を抱きしめる。 渉の身長は一八〇センチを超える太田が抱きしめるとすっぽり入る身長だ。 「だって、渉さん、こんなに可愛いんだもんな〜。何のに、CMディレクターとしては格好いいし」 「年上と言えば、年上だな…」 元彼は…。嘘を付いている渉は、少しだけ恥ずかしそうに呟いた。 「やっぱりなぁ…」 太田は何度もウンウンと頷き、納得する。 今まで彼になった男が年上の確率は高かった。しかし年下が少ない訳でもない。 年下は童貞も多かったし、下手したらまったく性的な関係を持ったこともない男が多かった。年上でも体型故に、もてない男も多かった。もっともまったく人との行為を知らない男に、一から快感を覚えさせるのは、嫌いではなかった。 「あ、戸波さん、そろそろいいですか? インタビューの方がお待ちなんですが…」 遠くから声が誰かの聞こえる。 「はーい、じゃ、お疲れ様でした」 渉は太田に軽く手を振ると、早足でインタビュアーの待つ会議室に向かった。 「あの、ゴールデンバーガーのCM依頼、本当に引っ張りだこだよな…」 太田慌てて走っている渉の姿を見ながら溜息を付く。 * * * 「第三会議室にお通ししてあります」 先ほどの声、スタジオで働いているスタッフが、明るく爽やかな声で告げる。 「有り難う」 早足で第三会議室に向かいながら、笑顔で応えると遠くからキャ〜とかしましい女性の声が聞こえてくる。 いつか誰かに言われたが、こういう感嘆はどうやら渉の容姿故らしい。容姿故に思っている男以外のタイプに付きまとわれたりした嫌な経験は多々ある。今の様に興味の無い人間にキャーキャー言われても、全然嬉しくない。 もちろんもてる故、そういうことに頓着しないのだと怒られたことも多々あったから、どうやら自分の所為らしいが、渉には大きなお世話だった。 小さく溜息を付いた後、仕事でいつも持ち歩いているバインダーノートを持ったまま扉を開ける。 「あっ…」 渉は中にいるインタビュアーの姿に、一瞬止める。 最高の出腹、服のサイズは4L〜5L。身長もそれほど高くない、想定一七〇センチ前後。 足首は細いけれども、股は鳥もも肉も逃げ出しそうな、ぽよん、ふわりんこ。 色白、卵肌、髪は少し後退していていい感じでしっとり全身に汗をかいている。 やばいくらいに美味そう、パーフェクト。 クリテッィカルヒット!! 直球、一撃。 ハラショー!! 会議室で待っている男の姿に赤面しながら、渉は万歳三唱を上げたくなる気分を抑えて、まず笑顔で攻撃を仕掛けようとにっこりを微笑んだ。 「今日は有り難うございます」 「あ…、いえ…」 案の定、インタビュアーは赤面しながら戸惑っている。 涎が垂れそうになる思いを心でぎゅっと抑えて、もう一度今度は先ほどよりももっとフランクで好意的な笑顔を向けながらポケットから名刺を取り出し渡す。 「CMディレクターをしております、戸波渉と申します」 「あ、お噂はかねがね。メタボバーガーのCMはずいぶん話題になってますから、かく言う私もあのCMにはびっくりして思わずキングバーガーに並んで買いに行きました」 「有り難うございます」 「あ、○×出版記者をしてます、日向東と申します」 「日向さんですか…、素敵なお名前ですね…」 にっこりと微笑みながら、渉は日向に応接の椅子に座るように促す。 「そんなに可笑しいですか? 僕?」 「えっ?」 別に笑っているつもりなど無い渉は、少し驚いたように日向を見た。 日向は驚いている渉に、しまったという顔をした。 「あ…、すみません。ちょっとコンプレックスがあるらしくて、あなたみたいに可愛らしい人が愛想良くしていただくと、つい自分の事が笑われているのかと思ってしまって…」 「そんな…。何であなたを笑うんですか? そんなに素敵なのに…」 渉はつい本音をうっとりしながら言った。しかしそれは渉の常識。男は顔を真っ赤にして照れ笑いとも少し怒っているとも取れる複雑な表情をした。 「そんな、からかわないでください。僕みたいな体型の男が格好いいだなんて…。女優さんですら逃げ出す可愛らしさという噂の、戸波さんに言われたらどうしていいか…」 こうなれば、後は引くか引かれるか。 仕事ではない。恋愛の駆け引きになってくる。 ここでこの男は落とせれば、今晩のこの寂しい心は癒される。 「僕は、本気であなたを格好いいと思っているんだけどな…」 思いっきり誘っていると判る視線を日向に渉は向けた。 「そんな、恥ずかしいなぁ…。それよりもインタビューをお願いします」 「あ、はいはい」 渉はもう一度笑顔を日向に向けるとインタビューを受けていった。 「では本日は有り難うございました」 メタボバーガーなどを中心に、インタビューが終わり、日向はカメラなどを片づけると帰り支度を始める。 渉は、ここからが勝負! とばかりに日向を誘う思いが伝わるような最高の笑顔を作った。 「あっ、これからまだお仕事ですか?」 「まあ…、この記事をまとめなくてはいけないんですけど…」 「もしお時間が少しでもあれば、飲みに行きませんか?」 「えっ、戸波さんが誘ってくれるんですか?」 「まあ…、本当は今回のCMの打ち上げもあったんですが行きそびれてしまったんで、一人で飲むのも寂しいから…、なんて思って…」 上目づかいの視線。まずは日向を落とすところから始めないと…。 そんな下心一杯の視線で、渉は日向を見つめる。 「嬉しいな…、でも今日は勘弁してください」 「何か用事でも?」 「はははっ、実は恥ずかしい話ですが妻の誕生日なんですよ…」 「はっ…。あのご、ご結婚しているんですか…?」 目眩、吐き気、耳鳴りがしている様なそんな音が聞こえてくる。 日向は嬉しそうに笑顔を見せる。 渉の計算し尽くした微笑みなど比べ物にならないほど、幸せを満喫している眩しい笑顔を…。 やばい…、具合が悪くなりそうだ…。 「大丈夫ですか? 顔色が悪く見えるんですが…」 「あ、いえ、だ、大丈夫ですよ」 多分、自分でも情けないほど物凄く引きつりまくった笑顔。 「本日は有り難うございました…」 辛うじて残った理性で、日向を送り出すと渉は会議室のドアを閉め、へたり込んだ。 「最低ー…」 その晩、いつも行きつけの店で渉が荒れたのは、言うまでもない。 しかし人生は捨てた物ではない。 べろんべろんに酔い、気分が悪くなった渉に一人の男が声をかける。 「大丈夫ですか?」 アルコールでぼんやりした頭で見つめた男の姿は、ハンプティダンプティ。 まさに理想の男だった。 その晩、渉が行きつけのオカマバーでお笑い系のオカマキャサリンに慰めて貰ったのは、また別の話。 Fine |
そんな言い訳していいわけ?
夏コミ用無料配布。かわいこちゃん×巨漢。なので良心が咎め、性描写なし。 かわいこちゃん渉の理想はハンプティダンプティ。けれどなかなか理想の相手に出会えずに。 |
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