2000/7/15(土) |
EXIT |
そこにいる彼を見つけたとき不思議と目が離せなかった。 彼は休憩時間になると練習に使っているホールを出て、靴も履かずに裸足ので、 丁度ロビーから死角になる非常階段の踊り場へ向かい、”evian”を持ったままで 隅にうずくまっていた。 練習の打ち合わせや休憩する人でざわめくロビーやここぞとばかりに煙草を吸う 喫煙所とそう距離が離れていない場所にある非常階段の踊り場。 そこだけが時間にすら忘れられた異空間の雰囲気だった。 彼はオーケストラのファーストヴァイオリンの二列目でヴァイオリンを弾いていて、 俺は合唱団の何でも屋(決まった役があるわけじゃないが人が足りないのでいろ んな役をやる)。
二人とも名のある役柄ではないし、このオペラのプロは歌手のソリストだけで殆どが アマチュアから普段何をやっているか解らない。それでもこのオペラ”カルメン”の 完成するために頑張っている。 合唱とオーケストラの合わせは、公演日前のホンの一ヶ月程度で、今日が合唱、 オーケストラ、ソリストが介して合同練習の第一回目で、今、ソリストが場見(立ち 位置を決めている)をしているために、合唱とオーケストラ団員が始めての休憩時間 だった。 皆が話をしている横をスッと通り抜け、その非常階段の踊り場に彼は向かうと、 軽く”evian”を呷(あお)り、そして隅にうずくまってしまった。 彼は俺がこうやって見ていることに多分気づいていないんだろうが、何となく俺は 彼の様子が気になって彼から目が離せなかった。 別に話しかけようとか、親しくなろうとかそんな事は考えているわけではないが、 来週の合同練習でもまた彼に逢えるのだろうか...。 そんな気分で休憩時間は終了していく。
Fine
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