「まず靴の履き方から始めようね」
田中はキリキリ痛む胃を押さえながら笑顔で生徒に指導を始めた。
〜人物紹介1
田中は当年31歳スケート歴25年、
フィギュアスケート歴(スケートしながら飛んだり跳ねたり、回ったり華麗なワザを競い合う競技)20年のインストラクター助手(よーするに先生お手伝い)。
元々田中の母親がフィギュアスケートファンで、母親の習っている教室に託児所代わりに押し込まれたのがスケートを始めるきっかけだった。
今インストラクターをやっているのは、今までスケート以外の事をしていなかったためによーするにつぶしが利かなかった。そして田中はそのまま自分のホームリンク(普段練習時に使っているリンク)のインストラクター助手になったわけだった。
「はーい先生!靴は右から履くんですか、左から履くんですか?」
元気よく鈴木が手を上げて質問した。
〜人物紹介2
鈴木は現在高校2年、16歳。このリンクでフィギュアスケートを習っている選手。
全日本選手権5位くらいをうろちょろしている。両親がやっぱりフィギュアスケートの選手なので子供の頃は田中同様託児所代わりにリンクにいた。
「鈴木君...。バカなこと云ってないで、君は自分の練習をして下さい...」
胃を押さえながら田中は云った。
「田中せんせ。こいつ俺のダチなんだよ」
「どーも。佐藤っす。スケートは学校の野外学習で行った2回だけっす」
「こいつ、俺の学校のダチで、スケート習ってみたいって云うから連れてきてやったんだぜ」
自慢げに鈴木は佐藤を指して云った。
「そうでしたか。有り難う。じゃあ解ったから鈴木君は練習に戻ってね」
「ちっー」
営業用スマイルで田中は鈴木を練習に行かせる。そして小さく咳払いをした。
「じゃ、もう一度靴の説明からします。
スケートの靴は靴の部分と刃(ブレードって云うんですが)の部分があって、スケート競技、スピードスケート、アイスホッケー、そしてフィギュアスケート(以下フィギュア)とスケート種目は3種類あり、それぞれ使用する靴とブレードの部分が種目によって異なります。
今佐藤君が履いてる靴、それはスケート場で貸す、貸し靴と云うんですが、その中でも初級者にはフィギュアスケート用の靴を借りてもらいます。
靴を履く順番は人によって違うので特に指定は有りませんが選手クラスになるとどちらの靴から履くと云う願掛けをしている選手もいます。
貸し靴はリンクによって形状が微妙に異なりますが、一般的には皮が柔らかく、ブレードの氷と触れる部分(エッジ)は比較的鋭角に研(と)がれていなく、つま先の部分(ガギガギブレーキ)はつまずかないように余りついていない物が一般的です。
これがフィギュアスケートを本格的にする靴になるとつま先の部分や、皮の固さ、エッジの研ぎ方が異なります。
今は貸し靴の話に戻しますね。
じゃ履いてみましょう。
履き方も教える先生によって違うんですが、私が一番貸し靴で履きやすい方法をお教えします。
1.靴のひもを緩め足を入れます。
2.足の先のばってんになっているひもをつま先の方から順に少しきついくらいに引っ張りながら緩みを引き締めていくます。この時にひもがねじれている場合は正しく直してやって下さい。
3.足首までしっかりひもの緩みを引き締めたらもう一度しっかりひもを引っ張り、一回結びんでから足首でくるりと巻くようにしっかり固定し、前まで戻し、そこでちょうちょ結びをし、ちょうちょの輪になっている部分を一番下のカギになってる部分に引っかけます。
4.そうしたら輪を引っかけた上からばってんを作るようにカギに引っかけていき一番上まで来たらちょうちょ結びをします。ここでひもの残りが少ない場合はチョウチョの輪の部分を一番上のカギにかけましょう。そうするとひもがほどけにくく安全です」
「まあ一番良い靴の結び方はどの先生も云うことだけど足首より下の部分をいかに安定できるかだから、まして靴の皮の柔らかい貸し靴でいかに安心して滑るかがかって来るんだぜ」
「鈴木君!練習は!!」
「いいやん田中ちゃん。かてーこと云うなって!よく足首の方をしっかり安定するって思ってる人多いけど、足首をよく曲げなくちゃ安定した滑りって出来ないから、足首の部分は緩く、その下のこうあたりまでと足首外してその上の部分をしっかり結べるかが、いかに怖くないスケートを滑れるか何だ」
「佐藤もその部分を気をつけて履いてくれよ。因みに俺は左から履く法が安定して滑れるんだ」
「鈴木君は左ですか...。私は右の方が安定しますね...。って先程から加藤先生(鈴木君を教えている先生)が睨まれてるんですが...」
「げ!じゃ佐藤!がんばれよー」
「...。」
あれできちんとレッスンが出来るのだろうかと不安を感じた田中であった。
「まあ、何はともあれ佐藤君も安定した靴の履き方をしたところで、次回は立ち方と歩き方の説明をしますね」
「せんせ、まだ履いてないんすけど...」
「あー。すみません」
胃を抱えて田中は焦りながら愛想笑いをするのであった。
To be continued...
|