「ぁ…、あぁ…。早く…、早く……をくれ」
頭上から感じるこいつの熱い吐息。
俺は、胸の飾りを舌で猫がボールにじゃれるかのように、玩具の様に転がしながら、こいつのはしたなく先走せた蜜で難なく飲み込ませた指は、感じる部分をわざとずらして動かしていった。
背をしならせながらこいつは、そのもどかしさに耐えきれずに、淫らに腰が揺らし、早く俺が欲しいとせがんでくる。
「ねえ…、早く…、……を、挿れて…」
いやらしく涎を垂らす傘の開かれた部分を、意地悪く、かつ楽しみながら撫で回し、急くこいつを焦らしながら、俺はわざと胸で突起している部分に軽く歯をたてた。
全身がしびれた様になり、快感を心得ているこいつの口からは、ますます熱のこもったあえぎ声が聞こえてくる。
「あぁ…、だめ…。もう…、なぁ、……焦らすな」
呼吸がますます激しくなり、もう耐えられないとばかりに、目をきつく閉じるこいつを見つめ、快感を必死にやり過ごそうしている。
こいつをこんな風に乱れさせ、いじめるのは楽しかった。
しかし、俺自身もそろそろ限界を感じ始め、ベッドの横の勉強机の上に用意していたスキンに手を伸ばすと、歯で銜えて袋を破った。
そして、手早く自信に点けると、指を抜き、一気にこいつに楔を打ち込んだ。
「ぁ…、うっ…、くっ…、……」
男を受け入れることに慣れているとはいえ、さすがに挿れられた時の圧迫感だけはあるらしく、こいつの熱い息が、一瞬固まり、猛っていたものが少しだけ萎える。
俺は熱く絡み付いてくる筒に、ゆっくりと、こいつの一番感じる部分を中心に暴き始めた。
しばらくすると、こいつの上気した薄桃色の肌に汗が流れ、萎えていたものが力を持つと、先端の部分から、先端の部分に、いやらしい白い蜜が溢れ始める。
猛ったものを抜き差ししながら俺は、こいつの先っぽの粘つきを周りに広げながら、ぱんぱんに張りつめた棒をしごいてやった。
傾きかけた春の陽射しの中で、”あいつ”を思いながら…、”俺”は”こいつ”を抱く…。
陽射の弱まった東向きの部屋には、艶めかしい濡れた音と、こいつの止まらない喘ぎ声、そして俺の荒い息が響きわたっていた。
闇に包まれるには、まだまだ早い時刻。
まだ太陽が沈むには早い時刻の所為か、電気のつけていないくてもベッドで折り重なっているこいつと俺の姿は、はっきり目で見えるほどだった。
自分のの下で大股を広げて俺を受け入れ、快感に身悶えるこいつの姿が、その明るさで男を誘っているように見える。
お互いがはっきりわかるほどの欲望は、欲望を高ぶらせるエッセンスとして際立たせ、それがまた更なる快楽を呼び起こし、二人を快感の虜にする。
今年度は受験の年だと云うのに、勉強をせずにベッドをきしませている…。
そんな高校生3年になったばかりの放課後。
学校で授業が終わり、クラブに入っていない俺は、早々に帰宅しようとした時に、誘ったのはこいつの方だった。
『なぁ…、今日、親、二人とも旅行に行っていていないんだ…。来ないか? うちに』
こいつに誘われたとき、一瞬、躊躇した。
しかし、それでもその後の快楽を考えると、自制する必要も見つからず、誘いにのった。
そんなに共通点や共通の話題があったわけではなかった所為か、ここにたどり着くまで、それこそ気にも止めないような、くだらない話をしながら来た。
けれど最終到達部分が同じ二人は、家に着くとドアが閉まりきる前に、唇を合わせ、舌を絡め合い、互いの口腔を貪った。
まるで飢えた野獣の前に生肉でも放り投げ入れられたかのように、二人ともがお互いにむしゃぶりついてた。
玄関から二階のこいつの部屋にたどり着くまでの廊下で、親がいないのをいいことに、急く気持ちに歯止めが利かず、制服のブレザーを脱がずに、互いのネクタイを緩める。
がっつくのはみっともないと思いながらも、それでも早く気持ちよくなりたい、そんな思いでシャツのボタン弾き、火照って止めることのできない躯の感じるところを攻め合った。
そしてこいつの部屋に着いたとたん、制服を乱暴に脱ぎ捨て、じゃまな下着すら取り払うと、何も纏わないまま絡み合うようにベッドに縺れるように倒れた。
感情よりも本能のままに求める…、こいつとはそんな関係だった。
あいつへの一方通行の満たされない思いと、こいつの躯の虜になっていく自分を自覚しながら…。
不思議なことに、こいつとは同じクラスになったこともないどころか、学科のニアミスすらなかった。
それでもこんな関係でいるのは、普通の共学の高校で、”男を抱きたい”なんてそぶりを見せたことは一度もないるもりだったが、不思議と昔から目の前に、男に抱かれたいと思う人種が集まってきた。
男を抱くことに嫌悪を感じなかった俺は、”食ってくれ”と云わんばかりにくるやつらを有り難くいただいていた。
そんなときに、こいつは俺の目の前に現れた。
『……、俺を抱いてみないか? そのへんのくそガキたちよりも、きっと楽しめると思うぜ』
そんな誘いから始まったつき合いだった。
もっともこいつのことは、誘われる前から知っていた。
学校の内外の男を相手にしていると云う噂が立っていて、友人の中でも下卑た話をするときには、必ず出ていた。
そんな噂の元というのが、こいつの人一倍、人目を引く容姿と性格だった。
170は超えている身長も、太ってはいないが、華奢には見えない体系も女には絶対に見えない。
しかし、学校中の女どもよりも奇麗と云う言葉がぴったりしていて、噂に煽られてか、それとも本当なのかそのときは知る由もなかったが、妙に男を誘う雰囲気があった。
そんな雰囲気を持ちながら、こいつは男たちに囲まれいつもその中心にいて、その中で女王様だった。
自分の気に入らないやつは相手にもしない…、そんな態度を取っていて、それがこいつをよけい魅力的に見せていたから不思議だった。
そんなこいつから声をかけられたときは、俺も驚いた。
『お前もてるんだろ? なんで、俺なんか誘うの?』
俺がそう訪ねると、こいつは余裕の笑みを浮かべる。
『だって、お前テクありそうじゃん。お前なら俺を満足させてくれそうだから…』
そう云って俺の肩に腕を回し、まるで値踏みでもするように、唇を合わせた。
その後、俺とこいつはそのまま5時限目の授業をふけ、空いていた被服室で初めて躯を繋げた。
確かにこいつの躯は自分で云うだけあって、いままでは”まあ、一、二回やれば満足…”と思う男たちとは違っていた。
淫らで、自分がどこをどうされれば感じるか知っていたし、俺の感じそうなところもわかっているようだった。
行為に慣れた躯。
それだけではなくて、元々惚れた腫れたのつきあいではなかった所為もあって、いわゆる大人の割り切ったつきあいを心得ていた。
『思った通り、お前とやっていて楽しいよ』
まだつきあい始めて間もない頃、激しかった情事に躯を横たえながら、こいつは楽しそうに云った。
一緒にいる時間が長くなっても、性格もさっぱりとしていて、恋人気取りをしないどころか、立ち入ってほしくない部分には決して足を踏み入れない。
愛撫に対しての感度や、男を知っているにしてもあそこの締め具合も、そして何にしても躯の相性が最高だった。
それもあってか、いつもの躯だけのつきあいをしているやつらよりも長続きし、気が付いたら、もうこいつと3カ月…、4カ月目に入っていて、それこそ両手で数え切れないほど、躯の関係を結んでいた。
誰でも一緒なら気持ちよくなれる方がいいて…、どうせ、あいつでないのなら…。
『…ぁああ…いい、ね、……。も、もっと奥に…、奥にきて…、……』
焼き切れそうな熱い息に混ざって、焦がれるように浮かされ、俺の名が耳に届いてくる。
こいつの中で猛っている俺は、その声に刺激をますます激しく腰を動かし、急くように楔を打ち付ける。
俺の下で快感に身悶え、乱れるこいつ…。
いつしか、下で官能に震えているこいつの姿が、あいつの姿に重なってくる…。
俺はあいつを抱いている…、そんな錯覚すら感じられる。
「…、…」
動きを早め、いつしかあいつの名を心で叫ぶ…。
あいつとは、いとこ同士で年が2歳しか離れていない所為か、それとも住んでいるところが近かった所為かはわからないが、子供の頃からいつもあいつの後ろにいた。
いとこのいいお兄さんを慕う気持ちが、自分だけのものにしたい…、と云う独占欲に変わるまでにそう時間を要さなかった。
あいつはいつでも優しくて、俺のわがままを聞いてくれる。
大学に入って一人暮らしを始めたあいつの家に、転がり込んだときも、優しくほほえんだ。
『しょうがないな…、……の頼みなら、聞かないわけいかないか』
勘違いしてしまいそうな笑顔で、同居を認め、そして、親を説得してくれた。
あいつはこいつと違って、男なんて相手にしないだろう…。
いつもそばにくっついて、彼女ができたと話は聞かなかったが…、それもきっとこいつのように、男を相手になんてしない。
一緒に暮らし、近づけば近づくほど、あいつが男を相手になんて想像すらできなかった。
直接聞いたことはなかったが、話の端々で、あいつ自分の夢を語る。
『俺が結婚して、いつかお前も結婚したら、お互いの子供同士も俺たちみたいに仲良くなれるといいな…』
『……』
『そう思わないか? ……』
俺はあいつの言葉に、言葉を失いただ苦笑するしかなかった。
そして届かないあいつへの思いを抱(かか)えて、俺はこいつを抱(だ)く。
今にも折れてしまいそうな細い躯を抱きしめ、薄桃色の胸の飾りに快感を更に煽るように舌で転がし、あいつの中に自身を思いっきり打ち付ける。
熱く途絶えることのない思いを…。
「あ…、ぁ…、だめ。だ、だめ、いっちゃう…」
欲情に溺れた淫らなこいつの声すら、あいつの声に聞こえる。
俺は快感を正直に受け入れ、ますます激しく腰を動かしていく。
『………』
「くっ…、………」
解放を求め自分の下に組み敷いている男の足を一気に肩まで持ち上げた。
止めることのできない欲望の証を、ただ快感に流されるように強く、乱暴に打ち付けては、絡み付く男の狭い筒に擦られながら、ぎりぎりまで抜く。
男の口からは絶えず熱い息と、喘ぎ声が漏らしながら、それ以上を望み俺を銜えたまま腰を思いっきり回す。
俺も高みを求め、動きを早め、力一杯こいつの中に打ち付ける。
「くっ、……」
こいつが昇天し、思いっきり締め付けられ俺もこいつの中に精を叩き付けた。
その頃には、日はすでに落ち、月が昇り始めていた。
呼吸を整えながら、中から力を失ったものを引き抜こうとした瞬間、足を閉じられ俺の肩をこいつは押さえる。
そして、こいつは俺を抱きしめ、まだ息を弾ませながら呟く。
「まだ、足りない…。抜かないで…」
「でも、もうそろそろ帰らないと…。あまり遅くなると心配するといけないし…」
「……さんが?」
「そっ…」
あいつの名がこいつの口から出て、俺は驚き、息を思わず飲んだ。
「何度も聞かされた…、……は自分で口に出してないと思った?」
「それあ…」
「俺は、その……さんの代わりに抱かれてるんだよね? まあ、それでも楽しんでるのは俺も一緒だからいいんだけど。でも、今晩くらい俺につきあわない?」
「それは…」
こいつは小さく溜息を付き、俺の躯に絡めていた足を緩める。
「ま、いっか、帰れよ。俺はまだ足りないから、街にでも出るよ。そこまで一緒に行こうぜ」
「……」
そう呟いたこいつの姿が、あまりにはかなく見えた。
今まで俺はこいつのことをただのセフレにしか考えていなかった。
しかし、今日初めて、なんでこいつが俺に声をかけたのか…、疑問を持った。
いや…、何となく感じていたのかもしれなかったが、それを見ようとしなかった。
まだ躯から萎えたものを抜かずに、身動きしない俺を見つめ、こいつは余裕の笑みを浮かべる。
「何? 同情でもしてくれて、まだ抱いてくれるのか? ……さんが待ってる家に帰らなくてもいいのか?」
「……」
こいつのファーストネームを俺は呟いた。
そして、少しだけ姿に少しだけ力を取り戻したもので、こいつの中を掻き回し、首筋に吸血鬼の様な口づけを優しくそっとする。
それだけで、こいつの体温は上がり、中が熱く絡み付いてくるのを感じた。
止めることない俺の情熱は、こんな形でないと吐き出すすべを持たないのだ…、そう思うとこいつに対しても、自分自身に対しても、悲しく感じられた。
この日こいつの家を出たのはまもなく終電に近い時間になってしまった。
久しぶりに家で待つあいつに連絡せずに遅くなった。
俺は少し反省しながら、ずっと電源を切っていた携帯を取り出した。
電源を入れ、メールと留守電を聞くと、何度か母親から”至急折り返せ”と云う伝言が入っていた。
もう寝てるかもしれないと思いながら、電話をすると珍しく父親が出た。
そして、父親から母親の伝言を聞き、俺は愕然とし、慌てた。
『どこで何をしていたんだ! ……君が倒れて、救急車で運ばれた!』
俺はただひたすら病院まで走った。
押しつぶされそうな心臓を押さえながら…。
Fine