遅咲きのたんぽぽ 番外編1〜空の高さ...

 小高い上に吹くそよ風、晴れわたった青い空、眼下に広がる公園墓地の緑、そして教会の鐘の音。

 泥棒と政治家しか居ないと云われているパリの夏の暑さも8月に入っても一向に衰えを見せなかった。

 パリコレクション、パリメンズの秋、冬コレクションが終わり、気づいた時にはもう学校は本格的な夏休みに突入していた。

 毎年、エドワーズと共に彼のニースの別荘で過ごす夏休み。

 しかし、今年はエドワーズの仕事の関係でパリを離れられずに、パリにいる時にいつも使わせてもらっているモンマルトルの小高い丘のにあるエドワーズのアトリエで夏休みを過ごしていた。

 アトリエと一口に云っても世界の頂点と云われているデザイナー、エドワーズのアトリエは、この部屋を含めてプチホテル並で、子供の頃から使わせてもらっているこの部屋もワンルームマンション位の広さに、セピア色に近い肌色の壁に焦げ茶の板張りの床と部屋の内装は至ってシンプルだったが、大きめのバス、バスと別室のトイレ、広い勉強机にクローゼット2つ、大きめの本棚が2つ、キングサイズのベッド、部屋の中央には4人用のダイニングテーブル、と家具は全て落ち着いた木目調で統一されていた。

 この部屋も、ここのアトリエで生活しているエドワーズのお弟子さん達も、そしてエドワーズも、皆いい人達でここはとても居心地が良かった。

 窓を思いっきり開き、パリのモンマルトルの空気を味わいながらJUNはいつもそう感じていた。

「JUN休憩にしようか」

 エドワーズは、鉛筆とスケッチブックをテーブルに置いた。

 ”日差しが強いから外に行くのは止めよう”そう云ってエドワーズは、JUNの部屋でスケッチブックを広げ、JUNのスケッチを始めた。

 ”JUNをスケッチしていると良いデザインが浮かぶのだ”エドワーズに小さい頃から何度も云われた。

 エドワーズのデッサンのモデルを始めたのは、JUNが幼い頃からだと母に聞かされた。

 パリ滞在時やJUNの家にエドワーズが来ている時に、エドワーズは自分の時間が許す限りJUNのデッサンをしていた。

「今日は何だか楽しそうだね。何か良いことでもあったの?」

 エドワーズの問いに、JUNは頬を赤らめた。

「いえ、今日は清々しい良いお天気なので何か良い事が起こりそうな予感がするんで...」

 少し夢見がちなJUNの返答にエドワーズは微笑みで返答をした。

「JUNのフランス語は癖のないきれいな発音でとても聞き易いいい音だ」

 用意してあったコーヒーをエドワーズがカップに注ぎJUNに差し出した。

「君は持って生まれたそのショウコに、君のお母さんにそっくりな姿だけでも素晴らしのに、ステージの時も、そのフランス語も、君が一生懸命努力して手に入れた。君の年でフランス語や英語をあれだけ完璧に使える若者は少ないんじゃないかね。今持ってる物だけで満足しない。それはとても素晴らしい事だと思うよ」

 JUNは照れながらカップを受け取った。

「そんな...。ただ、父が、本気で仕事をするのなら中途半端にしない様に。と...。そう助言されたからです」

「君の父親は、タカシは、そういうやつだよ」

 ハッハッハハ。エドワーズは旧友を懐かしむ様に楽しそうに笑った。

「タカシは自分に対しても仕事に対してもとても厳しい男だ。こう云う仕事には大切な事ね。そう云う自分に対しての厳しさが...」

 満足そうにエドワーズは頷き、JUNはうつむき少し頬を赤らめた。

 エドワーズと父とは母を介して知り合ったらしく、父もエドワーズも仕事が忙しく滅多に逢う事はないが久しぶりに逢うと、毎日会っている友人達の様に酒を酌み交わしていたのを覚えている。

 子供の頃から何度か見たその二人の姿に、羨ましさとを感じた覚えがあった。

 コンコン。

 部屋にノックの音が響き渡り、エドワーズの秘書が中に入って来て、エドワーズに何かを伝えた。

 エドワーズはその耳打ちを聞いて一瞬険しい顔をした。しかしこちらを向き直った時にはいつもの笑顔でJUNに告げた。

「JUN。すまない急ぎの仕事が入ってしまった様だ。夕飯までには帰ってこれると思うから、夕飯は一緒に外に食べに行こう。じゃ、行って来るよ」

 軽くJUNの頬にキスをし、エドワーズは部屋を出て行った。

 パリで過ごすのは好きだった。

 いや、パリだけではなく”自宅”以外ならどこでも良かったのかもしれない。

 モデルになりたいと思った事は一度もなかった。

 母、”一色 薔子”はまだ無名だったエドワーズのモデルをしていた。母がモデルを引退してからも家族ぐるみのつき合いをしていたエドワーズは、よく家に滞在していて、子供の頃からエドワーズに頼まれてデッサンのモデルをしていた。

 映画監督であり俳優でもある父、”本田 貴史”と、今ではゴールデン枠のドラマには必要不可欠な女優と云われている元モデルの母”一色 薔子”、二人は仕事に、つき合いに、といつも忙しくて家に居たためしなど無かった。

 たまに居たとしても仕事の事を考えていて話しをした事も無く、だだっ広い家の中で顔を合わす事も余り無かった。

 二人だけならまだ諦める事が出来た、しかし家には父や母のお付きやお弟子さんも同居していたり、通って来たりする。

 二人は僕よりもそう云った仕事のつき合いを大切にし、その人達の世話に忙しかったし...。

 その人達も両親を崇拝している為、事有る事に先生(父や母の事)の迷惑にならない様にと、口うるさく訳の分からない事に干渉して来たと思うと両親の事でしょっちゅう叱責され、邪険にする事もあった。

 今思うと子供の頃からそんな思いをしていたのがトラウマになったのか、あの家を避ける様になりエドワーズについて回り...、早く独立したかったあの人達と離れるために...。

 独立する為には、嫌でもモデルをしながら、資金が稼ぐ...。けれど心の中では、家に居たくないので、逃げ出せる場所としてこのパリに来ていた。

 家を出て、誰にも気兼ねせずしたい事をやる、それが夢だった。

 仕事もモデルや芸能人ではなく、もっと別の...。例えば、ボランティア医の様な...。

 だから今は唯一の収入源であるモデルを一生懸命やるのと、帰りたくない家に帰らないでいい言い訳に、パリで生活するしていた。

 そんな言い訳に使うには勿体ない程、エドワーズの用意してくれたこのアトリエの部屋も、部屋を取り囲む雰囲気も、ここで暮らしていて仲良くしてくれるエドワーズの弟子達も、そして昔から第二の父の様に慕っているエドワーズも、ここの雰囲気は、東京の自宅よりもずっと居心地の良さが感じていた。

 この後どうしよう。

 カップに残ったコーヒーを飲みながら、どう過ごそうか倦ねいていた。

 まだ日差しは強いが、近くの公園へ行って勉強でもしようかな、散歩だけでも良いし...。

 昼間の空き時間に、弁当を持って近くの公園で勉強をしたり、本を読んだりするのが好きだった。今日の様にとても清々しい日は特にそうだった。

 コーヒーを飲み終え、カップを片づけ、外行く準備をし始めた時だった。

 いきなりドアが開いたのは...。

「あれ、先生いないの?」

 そう云ってドアを開けたのは、アラン.ヴァレンタインだった。

 アランは人気メンズモデルで、身長190cm、甘いマスクだが男性的な精悍な雰囲気があり、軽くウェーブの掛かった短めの焦げ茶の髪と深い翡翠の様なビリジアンの光彩がとても印象的なモデルだった。そして、アランは、女性だけでなく、男性にも熱狂的なファンが多かった。

「はい。何か急用だそうでどこかに行かれましたが...」

「ち、行き違いか...」

 とアランは独り言ちた。

 エドワーズブランドのメインモデルを勤めているアランとは何度もステージを共にしていたが、余り話をした事がなかった。

 もっともJUNは他のモデルとも余り話をせず、楽屋はいつも本の虫になっていたが...。

「君、一人?」

「ええ。先生を捜されるなら、事務所の方に連絡すればきっと行き先が判ると思います」

「そうなんだ」

 ”ふーん”とアランが鼻を鳴らし、ニヤリと笑った。

 JUNはその笑みに不安感を覚た。

「あ、あの...ちょっと事務所に確認してきます...」

 引きつった笑顔でアランに一礼をし、事務所に行こうとドアをに触れた瞬間、アランはドアノブを握っている手に自分の手を重ね、ドアを開けるのを征した。

 「あ、あの...」

 フッといやらしくアランは笑う。

 JUNはアランの不審な行動に逃げようとするがドアの開閉をアランに止められ逃げ場を失った。

 アランは、JUNをドアに手をつきJUNを抱き締める様な形で背後に立ってJUNの身動きを塞ぎ、そっと耳に息を吹きかける様に囁いた。

「やっと二人っきりになれたんだ。俺は君とずっと話をしたかったんだ、そんなに脅えるなよ。何も取って喰おうって訳じゃないんだから...」

 フッ。っと鼻で笑った息が耳に入り、JUNはゾクゾクッとした悪寒を感じた。

「は、話って、話って何ですか...」

「まあこっちを向きなって」

 そう云いJUNを自分の方に向く様に反転させ、両手でJUNの腕を壁に押さえつける様にし、JUNの顔と数センチしか離れていない距離までアランは顔を近づけた。

 JUNは緊張した面もちでアランを見つめた。

 アランが何をしようとしているのかは解らなかったが自分を舐めまわす様なアランの表情がとても怖かった。

「そんな怖い顔すんなよ。折角の美人が台無しじゃないか」

 アランがはふざけた風な物言でいやらしく笑い、そして長い左の人差し指でゆっくりとJUNの唇をなぞって行った。

 その不快さにJUNは指先に思いっきり頭を左右に振り顔を伏せた。

「この薄い引き締まった唇、あの人そっくりだ...」

 ”あの人?”誰にそっくりだと云うのだろうか?

 背筋に感じる恐怖にJUNの表情からは見る見る血の気を失っていった。

 ハッ!

 アランの顔が間近に迫ってくると息を飲んだ瞬間、アランの唇は自分の唇を塞ぎ、爬虫類の様なアランの舌はJUNの唇を歯列をそして口腔内を舐り始めた。

 そのアランの突然の行動に恐怖感が先に走りJUNはそれがキスだと気付くのに時間が掛かったが、更に増した不快感に考えるよりも先に押さえつけられた手をばたつかせ、頭を左右に振った。

「フッ、そんなに暴れるなって」

「じゃあまず、その手を離して下さい!!」

 知らず知らずに涙が溢れたJUNは必死に抗い、その抗議を楽しむ様にアランはニヤリとした。

「そんな顔するなって、すぐ満足させて上げるって。今日はエドワーズが相手してくれなかったから躯が寂しいんだろう」

「!! な...」

「Garcon(少年)の頃からショウコの代わりにエドワーズが手塩に掛けて育てた君だろう?エドワーズに教え込まれたテクニックで俺も楽しませてくれよ」

 ゆっくりとアランは、JUNの顎に当てた手で口を閉じない様にし、JUNの唇に自分の唇をもう一度押しつけ、JUNの口腔内を吸い上げた。

 ガリッ。

「...イ、痛...」

 JUNが必死の思いで噛んだアランの唇からは、真っ赤な鮮血がしたたり落ちた。

 一歩後ずさりアランは、口を腕で拭いながら更に不気味な笑みを浮かべた。

 そして力任せにJUNを壁に押しつけ、JUNの耳元で囁いた。

「やってくれるじゃないか。トップモデルの顔を傷つけるなんて...」

 先ほどより強い力で押さえつけられ小刻みに震えながらJUNは思わず息を飲んだ。

 物凄い恐怖感がJUNを襲い、”とにかく逃げなければ!”そう云う思いでJUNは必死に抗った。

 しかし、アランはJUNの股を割り、全身でJUNを壁に押さえつけ反対に暴れれば暴れるだけJUNはアランに躯を擦り付ける形になってしまった。

「そう焦るなって。すぐ気持ち良くして上げるから...。抵抗しているその表情もたまらないが、その美しい顔が快楽で溺れるようにさせてあげるから。大丈夫、多少浮気したって大切な君をエドワーズは怒りゃしない。君もエドワーズを喜ばせるテクニックを身につけて楽しめれば一石二鳥だろ」

「な...何を云って...」

 JUNが脅えれば脅えるほど快感を覚えている様にアランはワザとJUNの耳朶を淫猥な音を立てて舌で舐(ねぶ)っていき、JUNはその悪寒に震え言葉と抵抗が続けられなかった。

 抵抗しなくなったJUNを見計らってアランは、JUNを押さえていた左手でJUNのズボンの上からJUN自身を何度かなぞっていき、少しずつはっきりとした形になっていくJUN自身を確認してからベルトのバックルをゆっくりと外した。

 けれどアランの左手はズボンの上からJUN自身をなぞるだけで一向に直接は触れずに、ただジワジワとズボン越しに愛撫していく。

 その勿体ぶった愛撫にJUNは眼を閉じ、沸き上がって来る中音半端な快感をやり過ごそうとした。

「たまらない表情だね。感じてるんだね。感じている時の色っぽい顔も綺麗だ...。華やかで、凛々しいあの人とそっくりだ...」

 狂気に満ちたアランの瞳がJUNを見つめ、もう一度JUNの唇に自分の唇を押し付け、すでにズボンの上からでもはっきりした形を帯びているJUN自身を思いっきり掴んだ。

 ゾクゾクっとした快感が走りJUNの背中に電流が走った様に痺れていった。

「いい顔だね。どうしてほしいか自分の口できちんと云ってごらん。そうしたらもっと気持ちよくしてあげるよ」

「い...、嫌だ...。手を離せ...」

 JUNは微かに残された理性を総動員してアランに抗議した。

「素直じゃ無いね。こんなになっているのに、それでもそう云う事を云えるのかい?けど、そのプライドの高さは本当にショウコの様だ。ショウコかと思う程の容姿、そのプライド...、君は俺のモノだ」

「!!」

 アランはJUNが快感を感じる様わざとじわじわとJUNのズボンのボタンをはずし、ファスナーを降ろし、そして下着の中のJUN自身に直接触れた。

 既に屹立していたJUNの先端からはそのアランの行動に愛液を漏らし始めていた。

「や、やめろ!!」

 激しく胸を喘がせJUNが懇願するが、アランの先程からの行為で既に感じ始めた躯は思う様に力が入らずにアランが引き出す快感を受け入れようとし、かろうじて睨み付けるのが精一杯だった。

「そんな色っぽい目で見なくても一端達かせてあげるよ。ショウコ...」

 JUNを愛おしそうに見つめながら、JUN自身を握っている手を徐々に早めていった。

「あ...、...い、嫌だ...。手を...。離してください!」

 ”いやー!”

 悲鳴と共にJUNはアランの手の中で己を放った。

 自分の行った行為に激しい羞恥心を感じ、震えが止まらずに涙は止めどもなく流れ、JUN思考は何が起こっているかすら判らなくなるくらいに意識が曖昧になって行き、立っている事すら出来ずにガクガクと床に崩れ去っていった。

「良かったかい?もっと気持ちよくして上げるからね。直ぐに...」

 既に失神寸前のJUNに嘲笑しながらアランは静かにJUNを床に倒し、手早くJUNの衣服を排除し、JUNの秘めたる花がよくみえる様にワザと両足を大きく割り、JUNが達したものを綺麗な長い指で花の回りからゆっくりと塗り込んでいき、そして少しずつ花を指で広げる。

 その苦痛と異物感にJUNは”ひぃー”っと無意識に声にならない悲鳴を上げた。

「あの人は犯してはいけないモノだけど、君はその代わりなんだから、俺も気持ちよくしてくれるだろう?いつもエドワーズにしてる様にさ。そのお得意な誰にでも媚びて、男達を喜ばせているやり方でさ」

 JUNの秘花に挿入した指を抜き差しを繰り返しながら二本、三本と増やし、そして花が開花したのを見計らって、アランの滾った欲望は花を散らていく。JUNの秘花はアランを少しずつ飲み込み淫猥な男を受け入れる器に形を変えていった。

 風...だ、パリの匂いがする。

 もう夏も終わりに近づいているのかもしてないな...。

 優しく包み込まれるようなそんな風だ。

 いつ眠ってしまったのだろう。あ...勉強。もうすぐ学校のサマースクールで日本に戻るんだもあるし、宿題終わらせなきゃ...。

 お父さんやお母さんのいる日本に...。

 お母さんに、一色 薔子に、ショウコ...。あれ、ショウコ...、何か忘れている?

 起きなきゃ...。

 これは夢?身体がフワフワしている...。

 何で僕は何も着ていないんだろう...。ああ、夢だから...。

 あれ、僕の着ていた服...。何で椅子の上に無造作に置かれているんだろう?

 破れてぼろぼろになって...、汚れ?濡れいる、赤く染まっている所もある。

 動けないや、震えが止まらない、目の前がぼやける、あ...僕は泣いているんだ。

「起きて勉強しよう...」

 !!

 起きあがろうとしたJUNの身体を激しい疼痛が襲った。

 フラッシュバック。

 少しずつ覚醒して行く頭...。

「...いやー!!」

 狂気してしまいそうな感情がJUNの中から溢れだして行く。

 自分の意識の中に残っていたアランの言葉...。

「...お前はこれから俺のモノだよ。ショウコ...」
 

Fine
 

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